--どんなそばがお好みですか。
服部 丼にそばを入れて、山葵をといたつゆをザッとかけて、一気に食べるのが好きですね。乾麺も食べますよ。 乾麺は、もっと普及させてもいいと思 っています。インスタント食品が多く、 味覚障害も問題化している今、自分で味を調整できるのは良いことです。
--そばは栄養面でも優れた食品です。
服部 消化吸収が良く、血管強化などの効果があります。また、最近話題のポリフェノールも含んでいます。ポリ フェノールは、ガンや心筋梗塞などの要因となる活性酸素を除去する、抗酸化物質の一つ。このほか、抗酸化物質 には、ベータカロテン、ビタミンC 、 リコペンなどがあります。日頃から、 摂取することが望ましいですね。
--そばは、世界で食されています。
服部 そばのルーツについてはコーカ サスなど諸説あり、そば粉を使った食品も世界にはたくさんあります。例えば、日本語では「そば」ですが、フランス語では「サザラン」といいます。
サラセン帝国の粉という意味。そばがコーカサスから中東のサラセン帝国へきて、定着したことを表わしています。
--日本そばは、独自に発展しました。
服部 最近、音をさせてそばを食べる練習をしてから、日本に来る外国の人 がいます。でも、日本でそういう食べ方をするようになったのは、幕末の頃。 芝居や落語で、人気の役者や噺家がそばを音をさせて食べる演技をしたことから、まずは江戸で流行しました。全
国的に広まったのは、ずっと後で、昭 和初期。N H K のラジオ局開設記念放送で、落語家が音をさせてそばを食べる芸をやったのがきっかけなんです。
--何とも、粋な食べ方ですよね。
服部 もともと、そばつゆの多くは辛口。刺身や寿司に醤油をつけるように、 ちょんちょんとつけて食べていました。 「ぬき」という食べ方も あります。最初は酒の肴に、そばを抜いた丼につ ゆとてんぷらを入れて食べ、最後にせいろで締め る。これは江戸の食べ方 です。
--最後に、服部さんが 取り組んでいる「食育」についてお聞かせください。
服部 「食」という字は、「人に良い」 と書きます。つまり、食育とは、人に良いことを育むということです。
--食育の具体的な内容は。
服部 一つは、選食能力を身につけること。何を食べたら安全か、危険かを判別する能力です。二つめは、躾(しつけ)。今、日本人の4 割が箸をちゃんと持てません。三つめは、「食糧問題への対応」。日本は食糧の自給率が40%と
世界で最も低く、備蓄も極めて少ない 国です。そばを作るにも、そば粉は3日分程度の蓄えしかありません。その一方、日本が出す残飯の量は膨大です。
残飯にせずに世界に分配すれば、飢餓に苦しむ人たちに食べ物が行き渡ります。こうした現状を踏まえたうえで、 大人にも、子供にも、「食育」の大切さを理解していただきたいんです。